この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
依頼人は、A社と、営業担当のB氏を介し、太陽光発電システム等の購入契約を締結しました。商品代金及び施工代金の合計は、約2000万円ということでした。支払いは「工事完成後」ということになっていましたが、営業担当者B氏から、「会社の指示で、100万円だけ工事着工前に預からせて欲しい」と言われました。依頼人は、話が違うとは思ったものの、100万円程度を保証金のようにして預けるということも、ある程度やむを得ないことなのであろうと思い、営業担当者B氏に100万円を交付しました。しかし、その後、工事のためには道の拡張や農地転用の手続などが必要となり、さらに、相当額の費用を要することが明らかになりました。そのため、A社との契約は合意解除されました。依頼人としては、当然、B氏に預けた100万円は返ってくるものと思っていました。しかし、A社の代理人弁護士から、依頼人とB氏との預かり金の授受は、A社に無断で行われておりA社はB氏から預かり金の交付を受けておらずB氏が依頼人に交付した「領収書」についても、A社の横判は押してあるものの、署名はB氏のものであり、印影もB氏のものであるから「A社には支払義務はない」というものでした。そこで、依頼人は、B氏またはA社から100万円を返して欲しいと相談に来られました。
1 会社の従業員が顧客等に対して行った詐欺行為により、顧客に損害を与えた場合、顧客はその従業員に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると同時に、民法第715条第1項に基づき、その従業員が会社の仕事として顧客に与えた損害は、会社も賠償義務を負う可能性があります。2 これは、会社は、従業員を使って利益をあげているのだから、その従業員が会社の仕事として行った行為により顧客が損害を受けた場合には、その損害を負担すべきだという基本的な考え方です。3 本件では、B氏が、会社の承諾を得ずに「領収書」を偽造して依頼人から100万円を騙し取ったのであり、会社の仕事と言えないのではないかと思われるかもしれません。4 しかし、民法第715条の従業員が「その事業の執行について第三者に加えた損害」という要件は、①使用者の事業の範囲に属するか否か②被用者の職務の範囲に属するか否かを検討し、特に②については、客観的・外形的に見て、従業員であるB氏が担当する職務の範囲内に属するものか否かを検討する必要があります。5 本件では、契約も金銭の授受もB氏が全て担当しており、本件契約に基づく金銭の授受については、A社の横判が押された「領収書」が交付されており、客観的・外形的には、契約に際し100万円を預かるというのも、B氏が担当する職務の範囲内に属するものと解される可能性がありました。6 このような考えに基づき、私はA社に対し、100万円を返還するようにとの「通告書」を内容証明郵便で送付しました。しかし、A社代理人弁護士からは、「返還しないとは言わないが、B氏に対する責任追及がなされない以上、支払えない」との回答が来ました。7 B氏については、当方でもその所在を懸命に探しましたが、所在不明でした。そのため、当方として、B氏に対しては民法第709条に基づき、また、A社に対しては715条第1項に基づき、損害賠償請求訴訟を提起しました。8 その結果、B氏に対しては欠席のまま判決がなされ、A社に対しては、相手方(A社)代理人から「100万円を支払う」との和解案が提示されました。当方はこの和解を受け、100万円が返還されました。
1 以前にも紹介したと思いますが、仕事中の従業員同士の喧嘩や、本件のような従業員の詐欺行為については、会社としてはもともと認めている行為ではなく、なぜ会社がそのような行為にまで責任を負わなければならないのかとの考えるのも、理解できないわけではありません。社会的活動を行い、利益を得ているといっても、従業員のどのような行為について、会社にどこまで責任を負わせるべきかを、被害者の保護とどのように調整すべきかという問題になると思います。2 この調整について、最高裁判所は、本件についてあてはめると、「本件欺罔行為がA社の事業の執行についてされたものであるというためには、契約後に営業担当のB氏が保証金等の名目で100万円を預かる行為が、使用者であるA社の事業の範囲に属するというだけでなく、これが客観的、外形的にみて、被用者であるB氏が担当する職務の範囲に属するものでなければならない」(最高裁平成22年3月30日第三小法廷判決)と判示して、その調整を図っています。